【地方大学の経営層へ】18歳人口激減を生き抜く経営戦略!20年の現場経験から導く3つの視点

「来年の入試、定員を割るかもしれない」

そんな声を、私はここ数年で何度聞いただろうか。

大手広告代理店で教育業界を専門にコンサルとして働き始めて、気づけば20年以上が経つ。公立大学から私立大学まで、全国の大学の経営者や広報担当者と向き合ってきたが、近年ほど現場に緊迫感が漂っている時代はなかったと思う。

少子化の波は、もはや「将来の問題」ではない。今、この瞬間の問題だ。

18歳人口の減少は統計が示す通り、今後も続く。地方の大学では、東京や首都圏の有名校に優秀な学生を奪われ、定員確保すら困難になりつつある。財政基盤の弱体化も深刻で、補助金頼みのビジネスモデルがいつまでも通用するとは言いがたい状況だ。

しかし、私がコンサルの現場で見てきた事実がある。

同じ地方大学でも、明確な経営戦略を持ち、地域との連携を軸に据えた大学は、確実に生き残りの道筋をつかんでいる。「どんな高校生を迎え、どんな社会人に育て、地域でどう活かすか」という問いに答え続けた大学が強い。特色化に成功し、全国から学生を集めている大学もある。

問題は「何をするか」ではなく「どう設計するか」だ。

現在の延長線上の施策で、貴学の確かな未来は描けていますか?

この記事では、20年以上の現場経験をもとに、地方大学が今取り組むべき経営戦略を3つの視点として整理する。商圏への寄り添い方から、地域とのつながり方、独自の専門性の深め方まで、抽象論ではなく「実務で使える話」として届けたい。

地方大学が直面する現状と経営課題の基本構造

地方大学が直面する現状と経営課題の基本構造

データで見る18歳人口の減少と財政基盤の弱体化

まず、数字から現実を直視しよう。

文部科学省のデータによれば、日本の18歳人口は1992年のピーク時に約205万人だったが、近年は105万人前後まで半減している。2040年には80万人台に落ち込むとも予測されており、この変化は地方大学にとって構造的な危機を意味する。

なぜ地方大学が特に厳しいのか。理由はシンプルだ。

  • 首都圏や大都市の大学との競争において、ブランド力・就職力・立地で不利
  • 少子化により学生の「絶対数」が減少し、地方の私立大学から定員割れが始まる
  • 公立大学も自治体の財政悪化により、安定した支援を得られなくなりつつある
  • 財政基盤が弱いため、教育の質向上への投資が後手に回りやすい

私がある地方私立大学の経営者から聞いた言葉が忘れられない。「教授陣は優秀なのに、学生が集まらない。社会に評価されていないのか、存在を知られていないのか、もうわからない」。

これは個別の問題ではない。地方大学が共通して抱える構造的な課題だ。

少子化は止められない。だからこそ、戦略の転換が求められている。

なぜ今、新たな経営戦略が求められているのか?

「学生を集めるための広告を強化すれば良いのでは?」

そう考える経営者が今でも少なくない。しかし、私はその考え方にこそ問題があると思っている。

広告は「知ってもらう」手段に過ぎない。知ってもらった後に「選ばれる理由」がなければ、お金をかけるほど効果が薄れていく。

地方大学の経営戦略において今求められているのは、次の3つの視点を持った設計だ。

  • ①商圏に寄り添う:その大学が位置する商圏の中で、どんな高校生を、どんな社会人に育てるか。本人・保護者・地域のニーズにフィットするロールモデルを明確にし、実績を積み重ねていく
  • ②地域の課題解決と教育を直結させる:その地域ならではの産業や文化の持続性につながる専門性を維持・強化していく
  • ③この大学だから学べる特色を定め、深める:全国・都会の大学の中でも「ここでしか学べないテーマやアプローチ」を備え、深めていく

その上で、大学のキャンパスに地理的に限定されない視点も欠かせない。

  • DXを活用して地理的制約を超える:オンライン教育やデジタルコンテンツで全国や国外にもリーチする

東京の有名校に「総合力」で戦いを挑んでも勝ち目はない。しかし、この4点を一体的に設計できれば、地方であることはハンデではなくなる。地域に根ざした「ここでしか得られない学び」こそが、最強のブランドになる。

コンサル現場で見た地方大学の失敗例と成功の法則

コンサル現場で見た地方大学の失敗例と成功の法則

よくある失敗例:マクロな教育論に終始するケース

現場で何度も見てきたパターンがある。

学長や理事が「教育改革が必要だ」と声を上げ、外部の専門家を招いてカリキュラムの見直しを始める。議論は活発で、提案書も立派なものができ上がる。ところが、1年後に訪問してみると、ほとんど何も変わっていない。

なぜか。

合意形成に全エネルギーを使い果たしてしまうからだ。

ある大学でこんなことがあった。産学連携型の新カリキュラムを設計したが、教授会での承認に1年以上かかり、企業側はとっくに別の連携先を見つけていた。その改革案は、実効性を失ったまま「検討中」として棚上げされた。

この失敗の背景には、組織のマネジメントの問題がある。

  • 現場の教授陣が「自分たちごと」と捉えていない
  • 意思決定の階層が多すぎてスピード感が生まれない
  • 外部の理論や理想論が先行し、地域の実情と乖離している
  • 学内の合意を優先するあまり、改革の本質が骨抜きになる

改革は「決める」ことより「動かす」ことが難しい。特に組織の文化が長年変わっていない大学ほど、現場の理解を得る前に進めようとする施策は機能しない。

成功の法則:地域資源の再評価と特色化

では、成功している大学は何が違うのか。

私が見てきた成功例に共通しているのは、「自分たちの大学が位置する商圏に何があるか」を徹底的に棚卸しするところから始めている点だ。大学の外に目を向け、地域の産業・文化・人・歴史をリソースとして捉える視点がある。

貴学だからこそ提供できる、地域社会への独自の価値とは何でしょうか?

この問いを真剣に考えたことがある経営者は、意外と少ない。

「うちの地域には何もない」と言う学長に会うたびに、私はこう返す。「何もない」のではなく、「まだテーマ化されていないだけです」と。

農業、観光、食文化、伝統工芸、製造業――地方にはむしろ豊富な産業と文化がある。これらを教育の素材として設計し、地域企業との連携によって実践の場を作ることで、大学の特色は一気に鮮明になる。

成功の法則は、次のように整理できる。

  • 地域の商圏を「教育設計の起点」にする
  • 「ここを卒業した学生がどう地域で活躍しているか」という実績を積む
  • その実績を、次の学生を呼び込むブランドとして発信する

大学が地域の課題解決に深くコミットすることで、「この大学は地域に必要な存在だ」という認識が広がる。その認識こそが、最強のブランドになる。

地方大学を生き残りに導く3つの具体的な経営戦略

地方大学を生き残りに導く3つの具体的な経営戦略

視点①:商圏に寄り添う――ロールモデルの設計と実績の蓄積

地方大学の経営戦略において、まず問うべきは「我々の商圏は誰か」だ。

全国から学生を集めることを夢見る前に、足元の商圏を確実に押さえることが先決だ。私がコンサルで最初に確認するのは、「その大学の入学者の何割が地元出身か」「卒業生の何割が地元に残るか」という2つの数字だ。この数字が低い大学ほど、ブランドが商圏に根付いていないことが多い。

では、商圏に寄り添うとはどういうことか。具体的には次の設計が必要だ。

  • 入学者のロールモデルを明確にする:「この地域の高校生が、この大学を経て、こういう社会人になる」という具体的な人物像を描く
  • 保護者が納得できるキャリアパスを示す:地方では保護者の意向が進路決定に大きく影響する。「地元で活躍できる道」を見える形で提示することが不可欠だ
  • 地域ニーズにフィットした学びを設計する:地元企業が「この大学の卒業生を採りたい」と思う教育内容にする
  • 実績を積み重ね、「卒業生の声」を発信する:理屈より事実が強い。活躍する卒業生の姿こそ、最大の広報ツールになる

ここで重要なのは、「首都圏への憧れ」と「地元への愛着」の両方を大切にする姿勢だ。共愛学園前橋国際大学の学長はかつて、こう語っている。地方創生の観点から地域就職を促進しつつも、学生一人一人の未来は地方創生のためにあるのではなく、彼ら彼女ら一人一人のものだ、という点がぶれてはならない、という姿勢だ。

「地域のために学生を縛る」のではなく、「地域で輝ける力を育て、結果として残ってもらう」。この発想の違いが、ブランドの厚みに直結する。

視点②:地域とつながる――産業・文化の持続性に貢献する専門性

商圏を把握したら、次は「その地域の何を支えるか」を決める番だ。

これが視点②の核心だ。ただ地域と連携するのではなく、その地域の産業や文化の持続性につながる専門性を大学が担うという発想が求められる。

愛媛県松山市に位置する松山大学は、その好例だ。愛媛県、松山市など自治体・産業界と包括連携協定を締結し、学生・教員が地域産業と連携して地域の活性化を推進するとともに、実践プロセスを通じた学生の成長を促進する「社会人基礎力育成事業」を展開している。 University of Tokyo その取り組みは産学官の枠を超える。愛媛県立とべ動物園の魅力発信を目指す「ZooProject」や、養殖マダイの需要喚起のためにSNSで全国発信する「愛南マダイ応援隊」など、地域産業の課題を学生が主体となって解決するプロジェクトが毎年継続・新設されている。 Matsuyama-u

ここで注目すべきは「テーマの絞り方」だ。地域の産業や文化を幅広く扱うのではなく、個々のプロジェクトが具体的な地域課題に直結している点が強い。

こうした取り組みが機能するための条件は以下の通りだ。

  • 地域産業の「現場の課題」から教育テーマを設計する
  • 教授が地域の専門家として機能する体制をつくる
  • 学生の学びが地域の実課題解決に直結する仕組みにする
  • 成果を地域にフィードバックし、連携を深化させ続ける

大学が地域資源を捉え、振興すべき産業のテーマを絞って構想することが重要だ。「何でもやる」ではなく「これをやる」という意思決定こそ、経営者に求められるリーダーシップだ。

視点③:独自の専門性を定め、深める――「ここでしか学べない」をつくる

視点①②が「地域への根付き」だとすれば、視点③は「全国・世界への発信力」だ。

地方大学が首都圏の大学と戦うには、「総合力」ではなく「ここでしか学べない何か」を持つことが不可欠だ。そして、その専門性はできる限り深く、継続的に磨かれていなければならない。

共愛学園前橋国際大学は、この戦略を見事に実践している。偏差値がFランク寸前だった状態から10ポイント以上上昇し、全国の学長が教育面で評価する大学ランキングで全国5位(朝日新聞出版「大学ランキング2018年版」)にまで評価が高まった。 Yahoo!ニュース

その背景にあるのは、「Global+Localが地域をつくる」という理念のもと、留学や海外研修を中心としたグローバルな学びと、自治体と連携したPBLやサービスラーニングタームなど地域をフィールドにしたローカルな学びを4年間で組み合わせる「Glocal人材」育成という一貫した特色 University of Tokyo だ。

さらに注目すべきは、組織の一体感だ。教職員全員が経営者という意識のもとで動き、全員参加のスタッフ会議によって教職員一人ひとりが経営に参画する体制 Yahoo!ニュース が、改革のスピードを支えている。

独自の専門性を深めるための設計は、次の通りだ。

項目

従来の大学運営

次世代の地方大学経営戦略

意思決定

教授会・委員会中心で時間がかかる

全員参加型で経営への当事者意識を醸成

特色設計

学部の羅列、幅広さを売りにする

「ここでしか学べない」テーマに絞り込む

地域連携

個別の教授任せ

大学本部として組織的に推進

学生のロールモデル

曖昧・抽象的

地域での活躍事例を具体的に示す

DX活用

対面授業が中心、地理的制約あり

オンラインで全国・国外にもリーチ

卒業生との関係

同窓会組織が中心

在学中から地域でのキャリアをデザイン

また、DXの推進は単なる効率化ではない。地理的制約を超えた教育サービスの提供を可能にし、大学の影響力を地域外にまで拡張できる。これは地方大学にとって、これまでになかった新しいビジネスモデルの可能性を開く。

実践的な成功事例:全国の地方大学に学ぶ地域連携の形

実践的な成功事例:全国の地方大学に学ぶ地域連携の形

松山大学:商圏と産業文化に根ざした実践型教育

愛媛県松山市の松山大学は、愛媛の地に開学し地域と共に歩んできた100年の歴史を矜持として、「地域が誇れる大学」への進化を続けている。 Matsuyama-u

特に注目すべきは、地域産業との連携の密度だ。海運王国・愛媛県の産業を学ぶ「海事経済論」など、地域に根ざした独自の授業を展開している。 University of Tokyo さらに、愛媛県・松山市・西条市など自治体や産業界の18機関と包括連携協定を締結し、地域課題の解決に組織的に取り組んでいる。 University of Tokyo

この連携が単なる「協定」で終わらず、学生の実践の場として機能していることが松山大学の強みだ。地元企業との関係性が深いからこそ、学生は在学中から地域を「自分たちのフィールド」として捉えることができる。

商圏への寄り添いと、地域産業文化の持続への貢献。この2つを一体的に設計した好例だ。

共愛学園前橋国際大学:Glocal人材育成という独自の専門性

群馬県前橋市の共愛学園前橋国際大学は、定員割れ寸前の状態から全国トップクラスの評価を得るまでになった、地方大学改革の代表的な事例だ。

その中核にある戦略は明快だ。「国際化に伴う地域社会の諸課題に対処できる人材」の養成を目的として、GlobalとLocalをつなぐ「Glocal人材」育成という特色を、一貫して深め続けている。 University of Tokyo

この特色は表面的なものではない。世界24大学等と連携した留学・海外研修プログラムでグローバルな学びを実現しながら、一方で自治体と連携したPBLや、約半年地域で学ぶサービスラーニングターム等で地域に深く関与する学びを4年間かけて組み合わせている。 University of Tokyo

重要なのは、地域就職を目的にしながらも、学生一人一人の夢を尊重するという姿勢だ。地域のニーズと個人の可能性を両立させる設計こそ、学生から選ばれる理由になっている。

また文部科学省の大学支援施策に複数採択されており、COC、AP、COC+など文部科学省の大学支援施策4本すべてに採択されている。 Yahoo!ニュース 独自の専門性が外部からも認められた証だ。

追手門学院大学:地域創造を学部として設計するガバナンス改革

大阪府茨木市に位置する追手門学院大学は、ガバナンス改革と学部設計の両面から、地域連携を大学の骨格に組み込んだ事例として参考になる。

大学改革を速やかに進めるために、教学と経営の適切な機能分担、意思決定システムの見直し、ポストと組織の権限・責任の明確化を図るためのガバナンス改革を継続的に行ってきた。 Shinken-ad

教育面では、地域政策・地域デザイン・観光・食農マネジメントを学ぶ地域創造学部が、持続可能な地域・社会を創造することに主体的に参画する「地域イノベーション人材」の養成を目的として設置されている。 Benesse

さらに、ガンバ大阪とのパートナーシップ協定を締結し、学生を交えたプロジェクトや地域スポーツ人材育成コンソーシアムを展開している。 Otemon スポーツという地域文化を教育の素材として活用し、産学連携を広げているのだ。

「地域創造を学部として設計する」という発想は、単なるカリキュラムの話ではない。大学として「地域とともに歩む」という意思を組織全体で体現する形だ。

この3大学に共通しているのは、「地域連携を施策として追加した」のではなく、「大学の教育設計の中核に据えた」という点だ。その違いが、長期的な大学ブランドの差として現れてくる。

地方創生と大学の存在意義の再定義

地方創生と大学の存在意義の再定義

地域ハブとしての人材育成と長期的なビジョン

ここまで、経営戦略の3つの視点と成功事例を見てきた。最後に、もう少し長い時間軸で考えてみたい。

地方大学が目指すべき未来像とは何か。

私の答えはシンプルだ。「卒業生が地元で活躍し続け、その姿が次の学生を呼び込む大学」だ。

これは理想論ではない。実現可能な経営モデルだ。

大学が地域の人材育成をトータルで考えるとはどういうことか。入学から卒業後のキャリアまでを一貫して設計し、地域社会との関係を切らさないということだ。卒業生が地元企業の経営者になり、その企業が次世代の学生のインターン先になる。教授が地域の産業課題を研究し、その専門知識が地域企業の改善に役立てられる。

このような関係性が積み重なることで、大学と地域は「共依存」ではなく「共成長」の関係になる。

地域の再生を担う人材には、古きものを理解しつつ新しきものを積極的に取り入れる幅の広さと奥行きの深さが求められる。その両方を育てられる環境は、東京ではなく地方の大学にこそある。歴史ある産業と、変化を求める時代のニーズが交差する場所が、地方だからだ。

地方経済の未来を考えたとき、地方大学が果たすべき役割は計り知れない。大学が地域に深くコミットすることで、地域が豊かになり、大学自身も発展する。この正の循環を意図的に設計することが、これからの大学経営者に求められるビジョンだ。

地域と一体となり、共に成長し続ける覚悟を持てていますか?

この問いに「はい」と答えられる経営者がいる大学は、たとえ地方にあっても、必ず生き残る道を見つけられると私は信じている。

まとめ

18歳人口が激減する時代において、地方大学の経営戦略に「これをやっておけば安心」という万能の答えはない。しかし、生き残っている大学に共通する本質はある。

「商圏への寄り添い」「地域とのつながり」「独自の専門性の深化」、この3つの視点を一体的に設計することだ。

この記事で取り上げた3つの視点を改めて整理しよう。

  • 視点①:商圏に寄り添う どんな高校生を、どんな社会人に育てるか。本人・保護者・地域のニーズにフィットするロールモデルを設計し、実績を積み重ねる
  • 視点②:地域とつながる 地域の産業や文化の持続性につながる専門性を担い、連携の深度を上げ続ける
  • 視点③:独自の専門性を定め、深める 「ここでしか学べない」テーマとアプローチを持ち、DXも活用して全国・国外へ発信する

松山大学、共愛学園前橋国際大学、追手門学院大学の事例が示す通り、「地域に根ざすこと」と「全国に選ばれること」は矛盾しない。それどころか、地域への深いコミットこそが、東京の大規模校には真似できない唯一の強みになる。

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