来年度のオープンキャンパス企画を検討する時期になりました。「今年も同じ規模の来場者数を維持できるか」という不安を抱えている広報担当者は少なくないでしょう。
リクルート進学総研「高校生の進路選択に関する調査(進学センサス2025)」によれば、2025年4月の大学進学者が出願した大学数は平均2.42校でした。これは2019年の3.04校から減少が続いている数値であり、高校生が早い段階で志望校を絞り込む傾向が強まっているということです。オープンキャンパスの来場者を増やす取り組みは、この「絞り込みの候補に残る」ための競争の中で行われているという前提を押さえる必要があります。
この動きの背景には、18歳人口の減少という構造要因があります。日本私立学校振興・共済事業団「私立大学・短期大学等 入学志願動向」調査によれば、入学定員600人未満の区分はすべて定員未充足の状態にあります(充足率は83.72%から98.45%の範囲)。18歳人口は2027年度以降再び減少局面に入り、2040年度には81万人まで減る見通しです。こうした市場構造については、「【地方大学の経営層へ】18歳人口激減を生き抜く経営戦略!20年の現場経験から導く3つの視点」で経営全体の視点から整理しています。オープンキャンパスの集客は、この構造の中に位置づけて初めて、単発の広報行事ではなく継続的な経営投資として扱う意味が見えてきます。
本稿では、オープンキャンパスの来場者数を増やす具体的な施策と、その中で地方・中小規模大学が置かれている制約、そして来場者数を出願・入学へつなげる歩留まり設計までを扱います。
オープンキャンパスが学生募集で担う役割と参加行動の変化

高校生の進学先検討におけるオープンキャンパスの位置づけ(参加率・参加校数のデータ)
オープンキャンパスは、いまや大学進学希望者のほとんどが経験する検討プロセスの一部になっています。リクルート進学総研「進学センサス2025」によれば、2025年4月の大学進学者のうちオープンキャンパスに1校以上参加した割合は90.3%でした。これは2022年の79.7%から10.6ポイント上昇し、コロナ禍前の2019年(93.9%)とほぼ同水準まで回復した数値です。1人あたりの平均参加校数は3.7校で、こちらも2019年並みの水準に戻っています。同調査では、進学先検討時に重視する項目として「学びたい学部・学科・コースがあること」(67.3%)が最も多く挙げられました。次いで「自分の興味や可能性が広げられること」(28.6%)、「教育方針・カリキュラムが魅力的であること」(26.2%)が続きます。知名度や立地だけでなく、学びの中身への納得感を確かめる場としてオープンキャンパスが機能していることが読み取れます。
参加校数を絞り込む傾向と、来場時期のトレンド
一方で、参加校数そのものは減少傾向にあります。同調査では、興味・関心を持つ大学数の平均が2019年の5.78校から2022年に5.69校、2025年には4.67校まで減りました。出願校数の平均も2019年の3.04校から2025年の2.42校へと縮小しています。資料請求校数も2022年の6.97校から2025年には6.29校に減少しました。参加時期についても、高校2年時点で65.5%、高校3年時点で73.5%がオープンキャンパスに参加しており、最終学年に参加が集中する傾向がうかがえます。これらを合わせて読むと、高校生は「多くの大学を広く見て回る」のではなく、早い段階で候補を絞り込むようになっています。その絞り込んだ候補の中でオープンキャンパスに参加し、最終判断を行うという行動です。オープンキャンパス集客の目標を「多くの高校生に来てもらうこと」だけに置くと、この絞り込みの構造を見落とします。自校が「絞り込みの候補に残るかどうか」という観点から、告知や当日の内容を設計し直す必要があります。
都市部の大規模施策をそのまま模倣できない、地方・中小規模大学の構造的な制約

著名教授の講義やメタバースなど、都市部型施策が前提とする条件
都市部の大規模大学が実施するオープンキャンパス施策には、いくつかの特徴的な企画が見られます。大規模デジタル広告の投下、メタバースを使ったバーチャルキャンパスツアー、著名教授による特別講義などです。これらは、広い商圏から一定数の来場者を継続的に集められる知名度を前提にしています。加えて、専任の広報チームと相応の制作予算があって初めて成立する企画です。話題性のある企画は来場のきっかけにはなります。ただし、それだけで「この大学で学びたい」という意思決定まで後押しできるとは限りません。自校の規模・知名度で同じ企画を再現しようとする前に、その施策が何を前提に成立しているかを見極める必要があります。
予算規模・広報人員体制の違いが実行可能性を左右する
都市部の大規模大学の多くは、広報・入試広報を専任で担う複数名のチームを持っています。年間を通じて広告代理店や制作会社と協働する体制も整っています。地方・中小規模大学では、広報担当者が入試業務や他部署の業務を兼任しているケースが少なくありません。外部委託にあてられる予算にも限りがあります。同じ施策を同じ規模で実行しようとすれば、人員・予算の両面で無理が生じます。重要なのは、施策の数を増やすことではありません。自校の体制で継続的に運用できる範囲に絞り込み、その中で成果を積み上げることです。
交通アクセス・宿泊費という参加ハードルが来場者層に与える影響
地方大学の場合、遠方の高校生にとってオープンキャンパス参加そのものが交通費・宿泊費を伴う負担になります。都市部の高校生が電車で日帰り参加できるオープンキャンパスと、新幹線や宿泊を要するオープンキャンパスでは、参加を決める心理的なハードルが異なります。この負担は、志望度が固まっていない段階の高校生ほど参加を見送る方向に働きやすいと考えられます。交通費補助、オンライン説明会との組み合わせ、保護者同伴を前提にした宿泊情報の案内などが対策になります。参加ハードルを踏まえた設計が、遠方の志願者層を取りこぼさないための前提になります。ある地方国立大学では、地元の商圏以外から志願者を獲得する施策を立て、塾・予備校での「出張大学説明会」を成功させた戦略的な事例があります。
限られた予算・人員で成果を出すための施策と優先順位

告知チャネルとSNS・Web動線ー広く浅くではなく、届く層に絞る
限られた予算で告知チャネルを選ぶ際は、「広く浅く」ではなく、届けるべき層ごとに動線を分ける発想が必要です。高校生本人への告知はSNS(Instagram・LINE等)と大学公式サイトの動画コンテンツが中心になります。保護者への告知は大学案内や地域紙・進学情報誌、高校教員への告知は高校訪問時の資料提供や進路指導用の案内が、それぞれ異なる経路です。すべての媒体に均等に予算を配分するのではありません。自校の志願者層が実際に情報を得ている経路を優先して配分する方が、限られた予算の効果は高くなります。
模擬授業・個別相談ブースなど、プログラム内容の設計
プログラム内容は、来場者の意思決定に資する内容として組み立てる視点が重要です。「学びたい学部・学科・コースがあること」を重視する高校生が多いというデータを踏まえると、模擬授業や個別相談ブースの設計方針が見えてきます。学部・学科の学びの中身を具体的に伝える場として組み立てる価値があるということです。都市部型の大規模企画をそのまま模倣するのではありません。少人数だからこそ可能な個別対応の丁寧さを強みにする方向が、地方・中小規模大学には合っています。
高校訪問・指定校推薦層との連動で動員力を底上げする
オープンキャンパス単体の告知だけでなく、高校訪問や指定校推薦を通じた関係構築との連動も動員力を底上げする手段になります。総合型選抜・学校推薦型選抜の広がりにより、高校3年の早い段階、あるいは高校2年のうちに進路を固める生徒が増えています。高校訪問で日頃から関係を築いている高校の生徒・教員には、オープンキャンパスの案内が届きやすく、参加へのハードルも下がります。オープンキャンパスを単発の広報行事として捉えるのではありません。高校訪問・指定校推薦とあわせた通年の関係構築の一部として位置づけることが、限られた人員での動員力を底上げします。
実行優先順位ーどこから着手すべきか
ここまでの施策を、限られた予算・人員でどこから着手すべきかという優先順位として整理します。
優先度 | 施策 | 着手しやすさ |
高 | 志願者層に絞った告知チャネルの再配分(SNS・大学案内・高校訪問経路の見直し) | 既存予算の配分変更のみで着手可能 |
高 | 高校訪問・指定校推薦層との連動強化 | 既存の訪問活動に組み込める |
中 | 個別相談ブース・学部学科の学びを伝える模擬授業の拡充 | 当日運営の見直しが必要 |
中 | 交通費補助・宿泊情報案内の整備 | 予算確保が必要 |
低 | 都市部型の大規模デジタル施策・話題性企画 | 費用対効果の検証が先に必要 |
まず着手すべきは、新たな予算を要さない告知チャネルの再配分です。既存の高校訪問活動との連動も、あわせて着手しやすい施策です。話題性のある大規模施策は、優先順位としては最後に位置づけます。費用対効果を見極めたうえで検討する方が、限られた資源を無駄にしません。
ある大学では、地元新聞への広告出稿、連合広告へのすべての出稿、電車・バスの車内広告、多くのWeb広告業者への出稿、さらにラッピングバスの制作・出稿まで、潤沢な費用を投じていました。この実態を見直し、来場者へのアンケート結果をもとに、費用対効果とシンボル的な広告発信効果の高い媒体に絞って、出稿を大幅に削減しました。そのうえでPDCAを回し、評価を次年度に反映していきます。結果として、新聞への出稿とラッピングバスを廃止し、費用対効果の低いWeb広告業者への出稿も取りやめました。
地方大学、特に私立大学の商圏は狭く、同一県内と一部の隣接県が占める割合が高くなります。さらに商圏内でも、高校別に卒業生に占める出願者の率と数の構造、その時系列の変化を分析し、集客上の戦略的な価値を定めていく必要があります。その分析と戦略をプランに反映して成果を得るには、戦略対象とした高校への訪問を含めたリレーションが重要です。高校を訪問し、教員と面談し、資料を配布するという方法論だけでは足りません。高校教員を介して高校生本人の来場への関心を効果的に高める手法や、SNSを使った接点づくりが極めて重要です。対高校のリレーションと連動したマーケティング手法が有効です。
来場者数を「出願」につなげるための歩留まり設計と経営層との対話

「来場者数」だけをKPIに置くことで生じる歩留まりの落とし穴
オープンキャンパスの企画を検討する際、多くの大学が最初に置く目標は「前年より来場者数を増やす」ことです。しかし来場者数の増加は、出願者数の増加を自動的には意味しません。参加した高校生の中には、他大学との比較検討の一環として訪れただけの層や、志望度がまだ固まっていない層も含まれます。来場者数だけをKPIに据えると、こうした層への働きかけが手薄になりがちです。結果として「来場者は増えたが出願は増えない」、歩留まりの悪いオープンキャンパスになりかねません。これは広報担当者だけの課題ではありません。大学全体の入試戦略として、来場から出願までの接続をどう設計するかを理解しておくべき論点です。
大学経営トップの強い意向を反映し、オープンキャンパスの実施頻度を大幅に増やした例があります。しかし、高校生の関心が高まっていく時期とのミスマッチによる機会損失が多く、費用対効果の極めて低い結果となりました。また、学園祭のようなエンタメ要素を加え、ローカルタレントなどを起用して来場者増は実現したものの、出願率は低下した事例もあります。ターゲット外の高校からの来場を広げるだけの無駄な結果となったと、私は反省談として広告代理店から聞いたことがあります。
一方で、次のような点を想定した施策体系を構築できたケースでは、成功が多く見られます。
- 来場者が、その大学に進学する自分の姿を自分ごととしてイメージできるか
- そうした視点での興味・関心を持てるか
- 多様な出願方式の時期・方式の中で、自身の受験フォーメーションにきちんと組み込まれるか
- 強い関心を喚起し、総合型選抜・学校推薦型選抜などの説明会や情報へのアクセスにつなげられるか
大学院生や意欲的な在学生が、学部紹介や模擬授業の評価を行う仕組みを講じた大学での成功事例もあります。
参加後フォローと出願・入学への転換設計
来場者を出願につなげるには、オープンキャンパス当日だけでなく参加後の設計が重要になります。個別相談ブースで得た志望動機や懸念点を記録し、その後の連絡につなげている大学は少なくありません。プレエントリーや追加資料の送付、総合型選抜・学校推薦型選抜のエントリー案内など、次の行動を示す情報提供が有効です。参加直後のタイミングでこれを示すことが、転換率を左右します。参加して終わりにせず、参加後の数週間をどう設計するかが、歩留まりを左右する実務上の分岐点になります。
経営層とオープンキャンパスの投資対効果を共有するための指標の持ち方
来場者数だけを成果指標にすると、経営層との対話もその数字に偏りがちです。歩留まり率(来場者数に対する出願者数の割合)や、参加者の出願転換率をあわせて示すことで、オープンキャンパスへの投資が最終的に何を生んでいるかを共通の土台で議論できるようになります。来場者数の増減だけでなく、どの施策が出願につながっているかを指標として持つことが、限られた予算配分の意思決定を支えます。
本格的なブランディングコンサルティングを実施した大学では、地域性と、高校ごとの志願者数・志願率の実績を加味して、戦略対象とする高校をグループ分けしました。そのうえで、高校訪問で投入するツールや告知広告を展開する地域を、意識的に重点化しています。その結果、戦略対象高校からの来場率を向上できた事例があります。
まとめ:オープンキャンパスを、単発の集客行事から継続的な経営投資へ

本稿では、オープンキャンパスが高校生の進学先検討で担う位置づけ、地方・中小規模大学が直面する構造的な制約、限られた予算・人員での施策優先順位、そして来場者数を出願につなげる歩留まり設計までを整理しました。都市部大規模大学の施策をそのまま模倣するのではなく、自校の体制で継続的に運用できる施策に絞り込み、来場者数だけでなく出願・入学への転換までを見据えて設計する。この視点の転換は、広報課だけで完結する話ではありません。来場者数をどう出願につなげるか、そのための予算配分をどう決めるかは、学校法人の中長期的な募集戦略そのものに関わる経営判断です。オープンキャンパスを「今年の来場者を集める行事」から「限られた志願者母集団を確保するための継続的な経営投資」として位置づけ直すことが、次年度以降の企画を検討するうえでの出発点になります。
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